インフレ(=インフレーション)1とは,物価が継続的に上昇していくことをいう。物価の上昇率がわずかであれば,好景気を反映したものとして歓迎される。しかし,物価の上昇も程度の問題である。過度のインフレは通貨の価値を低下させ,また,日常生活にさまざまな悪影響を及ぼす。
例えば,第2次世界大戦直後の日本やドイツでは,物不足からお金の価値が激減した。それまで長い時間をかけてお金を貯(た)めていた人も,一晩のうちに財産の価値を失うことになった。ドイツの場合,一切れのパンを買うために,トラック1台分の紙幣を用意しなければならないほどだった。
インフレが起こる原因は,大きく分けて2つある。1つ目は,賃金や材料費など,生産にかかわるコストが上昇することによっておこる「 コスト・プッシュ2 」型のインフレの場合である。この場合,例えば円安によって輸入原材料の値段が上がったり,賃金の上昇が労働の生産性を上回った場合などが原因と考えられる。これは,先進国でよく見られるパターンだといわれている。
2つ目は,景気が過熱した結果,需要の伸びに生産がついていかず,物の値段が上がっていく場合である。これは「 ディマンド・プル3 」型といわれる。
その他,政情不安などによって将来の生活への不安が高まったときなどに,急速に物価が上昇することがある。その国の多くの国民(消費者)が, (A)非常時の蓄えを増やすために買い物に走るからである。日本では, オイルショック4 のときに,こういった例が見られた。多くの日本国民が同時期に石油関連製品を買い求めようとしたために,トイレットペーパーや洗剤の値段が上がった。
また,インフレによって通貨の価値が下がった後では,貯金をする人が減る。そして,銀行の貯蓄高が減ると,銀行が企業にお金をあまり貸さなくなってしまう。企業の経済活動にも大きな影響を与える。このように,国民一人一人の毎日の暮らしから国全体の経済活動まで,幅広く悪影響が出るのである。
一方、デフレ(デフレーション)とは、物価が下がり続ける現象である。供給が需要を上回ることで発生し、結果として物価は下がる。企業は減収となり、業績が悪化し、多くの失業者を出すため、不況につながる。物価が下落しても需要の上昇が見られず、さらにデフレを進行させる悪循環を「デフレスパイラル」という。
また、景気が停滞している状況下で同時にインフレが起こる現象を、「スタグフレーション」という。スタグフレーションの主たる原因は供給ショックであり、原油価格の高騰などにより、従来の生産工程に行き詰まりが生じ、供給能力が低下することにより発生する。 オイルショック時には、多くの国で スタグフレーションに見舞われた。
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