生命倫理(バイオエシックス)という言葉は、伝統的な医療倫理が行き詰まった20世紀後半に生まれたとされている。科学技術は近年,人間は自然を自由に加工し支配できるという考えをもとに発達してきたが,これに伴って生じる人の尊厳や人権に関わるような生命倫理上の問題が数多く出てきた。例えば,人工生殖技術・遺伝子操作・臓器移植・尊厳死と安楽死などである。
現在では人工生殖技術を使い、人工授精・体外受精・代理出産などが可能になり不妊夫婦の治療が行えるようになったが,親権は依頼した夫婦・代理母のどちらにあるか,男女を産み分けることで偏りがでないかなどの問題が生じている。
また技術の発達により遺伝子を診断したり,遺伝子を操作し,クローンを作ったり,(A)厳しい環境にも耐えられる作物を作ったりすることも行われている。イギリスや日本などではクローン羊,牛などが誕生している。しかし日本を含め欧米諸国の中にはヒトクローンの作成を禁止している国もある。また遺伝子操作を行った作物は収穫量が増えるという利点もあるが,安全性に疑問があるとする意見もある。
他の問題として、脳死・臓器移植の問題がある。日本では近年まで 心臓死1が人の死とされてきたが、1997年の 臓器移植法2によって、臓器を他人に移植する場合には,脳死を人の死とすることが認められた。脳死とは心臓が停止する前に,脳全体の機能が停止する状態である。脳死の状態になると,心臓の停止を待つ,又 ドナー3として臓器を他人に提供し他人の生命を救う道を選ぶことになる。臓器を他人に提供するには,本人の書面による意思表示,家族の同意が必要となる。また15歳未満の者からの臓器移植は認められていない。
末期医療が急速に進歩し延命治療が進んだ結果, 植物人間4の状態で延命することも可能になった。しかし植物状態は人間らしい生活ではなく,延命をせず,人間らしく自然な死を迎える尊厳死という考え方が生まれた。尊厳死は意識のあるうちに, リビング・ウィル(Living Will)5で延命治療の拒否を宣言しておく必要があるが,法制化にはまだ解決しなければならない問題がある。一方で激しい痛みに苦しんでいる末期患者が医療を中断したり、医師が死に至る処置を行ったりする安楽死の問題もある。日本では法的に認められていないが、安楽死を認めている国もある。
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