「環境問題」には,私たちに身近なものと地球規模のものとがある。毎日の暮らしと密接にかかわっているのは,ごみ問題や生活廃水の問題などであろう。これが都市や国家レベルになると,工業廃棄物や海洋汚染の問題,あるいは核廃棄物の問題になる。しかし,それらはその国だけの問題でもない。なぜなら,世界は海や空でつながっているからである。海に流れ出した有毒物は,だんだんと世界の海全体を汚くしていく。空に排出された様々な 大気汚染物質1が,形を変えて世界のいろいろな国・地域に被害を与えているのである。
「異常気象」という言葉を,世界各国の人々がよく口に出すようになってから,10年から数十年はたったであろうか。例えば,1995年の年末から翌年にかけて,アメリカ東北部では70年ぶり(当時)の大雪が降った。交通手段が麻痺(まひ)し,政治・経済が一時的にストップする事態になった。1997年にはインドネシアで大干ばつが続き,極度に乾燥した森林で大規模な山火事が起きた。その大量の煙は,フィリピンやオーストラリアなどの周辺国にも大きな影響を与えた。1998年にはメキシコで70年ぶり(当時)の大干ばつが起こり,そのとき発生した山火事のために同国の農産業は大打撃を受けた。98年には中国南部の揚子江(長江)や東北部の河川流域で大洪水が起こり,3000人以上の死者が出た。99年と2000年の冬には,モンゴルで連続的な大寒波が発生し、同国の牧畜業は大打撃を受けた。オーストラリアでは、2002年から6年間も干ばつが続き、穀物の大輸出国であるこの国が、世界の穀物需給に与える影響は大きい。また、2008年5月、ミャンマーで発生した大型サイクロンは、死者・行方不明者65000人もの甚大な被害をもたらした。
異常気象には様々な原因があるといわれている。しかし,その中でもきわめて重要な問題が,「地球温暖化の問題」である。これは,大気を温める(1)「 温室効果ガス」が増え,そのガスが地球規模の気候に影響を与える問題である。大気汚染物質であるメタン(CH4)や二酸化炭素(CO2)などが,代表的な温室効果ガスである。先進国では,燃やせば二酸化炭素が発生する石油を大量に消費している。工業用としてはもちろん,日々の暮らしの中でも同様である。多くの人が,ガソリンで動く自動車を使い,大量の二酸化炭素を日常的に発生させている。大量の電力消費も,結局はより多くの化石エネルギー(石炭・石油など)を消費し,二酸化炭素を発生させていることになる。一方,発展途上国では,木材として売るため,または自国の燃料とするために大量の木を切り,森林面積を減少させている。植物は二酸化炭素を酸素(O2)に変える働きをする。結果的に,温暖化を抑制してくれる植物を減らして,逆に二酸化炭素ばかりを増やしてしまっている。こういった悪循環はいまだに続いている。全地球的規模での国際協力のために設置された IPCC(=気候変動に関する政府間パネル)2の報告によれば,少なくとも6項目の問題点が挙げられている。また,過去およそ100年間で地球の地上平均気温は0.3〜0.6度以上上昇しており,海面も10〜20センチ上昇しているという。また,2000年の第3次報告書によれば,「2100年の地球平均気温は今より1.4度から5.8度上昇する」と予測されている。
1997年に議決した 京都議定書3では、先進国の温室効果ガスの少なくとも5%削減が設定された。 その後、アメリカのブッシュ政権が離脱したが、関係者の粘り強い努力により、ロシアが批准した。
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